OTNK日記

20代。ゲイ。種々雑多な日記。

Mission:Impossible -Can Opener-

我が家には缶切りがない。昨今のプルトップ付き缶詰の恩恵を最大限に受けてきた人生だったので缶切りとは全く縁が無かった。便利になった世の中を意識することなく享受して生きていた。

しかし、文明に慣らされた人間は脆い。文明の利器に頼りきりの人間は、その喪失により淘汰される運命にある。今まさに自分も時代の進化の中で一人、淘汰されようとしていた。

 

昨日、親から仕送りが届いた。仕送りという名の食料配給だ。レトルトや缶詰などの最低限生きていける非常食が送られてきていた。

もっとお米とかさ、野菜とかさ、身体にいいものをさ、なんて思いながらも非常食は非常食で有難いので感謝しつつそれらをシンクの下に収納した。

そして、今日。小腹が空いたのでシンク下を漁っていたところ、桃の缶詰を発見した。そして見たところプルトップのないタイプのようだ。

ここで前述の缶切りがない問題が浮上する。

なぜ缶切りを買っていないのか。それはやつが缶を切ることに特化したアイテムだからという理由に他ならない。

 

今や一つのアイテムが多くの役割を持つのは当たり前の時代である。スマホなんかがその最たる例だ。電話、メール、ゲーム、財布、などあの小さなボディで多種多様な役割を果たしてくれる。

それなのにどうだ、缶切りちゃん。君は缶を切ることしかできない。まぁ、缶切りなのだから当たり前なのだが。あと数世代後のiPhoneにはきっと缶切り機能もついてくるだろう。きっと。多分。恐らく。Maybe.

しかしそんな缶切りを買っていなかった理由を缶切りちゃんのせいにしたところで、目の前の問題は解決しない。

今自分は桃缶が食べたい。どうしても。缶切りなしで缶詰を開ける方法はないものか。グーグル先生に聞いてみた。

 

......なるほど。どうやらスプーンで開くらしい。スプーンの先端を缶に押し付けて擦ったら簡単に開くとグーグル先生が教えてくれた。

いざ実践。なにせこちとら空腹なのだ。意気揚々とスプーンを押し当て、缶に体重を乗せる。ぐりぐりと缶を押す。めり込ませる。桃を目指して。小腹を想って。

 

 

............結論からいうと、開けられなかった。なにがダメなのだろう。グーグルで調べた通りに実践しているはずだ。このハウツーを紹介している人たちは、なにか特別な技術を持っているに違いない。グリーンベレーとかで訓練してるに違いない。

どれだけスプーンをめり込ませようと、缶が削れて鉄の匂いがするだけで、一向に桃の匂いは感じられなかった。

結局、ドライバーを突き刺してそこからてこの原理でふたを引きちぎった。なんともバイオレンスだが致し方なし。

中世だか近世だかの缶詰ができたてのころのヨーロッパでは、銃で射撃して缶詰を開けていたって話をどっかで聞いた覚えがある。その気持ち、今ならものすごく理解できる。

目の前に美味しいと分かっている食べ物があり、お腹が空いている。しかし、どうしても開けられない。そりゃ銃も取り出す。弾丸も飛び出す。

汗だくになりながら缶詰を攻略し、ありつけた桃缶の甘さにしばし酔いしれた。ドライバーをぶっ刺した影響で桃が原型をとどめていなかったにせよ、努力のあとの成果の味は格別だ。

だがもし、もし我が家に缶詰を差し入れるような人がいたらぜひプルトップがついている缶詰をチョイスして欲しい。もうドライバーをぶっ刺したくはない。ドライバーをベタベタにしたくはない。

どうやら缶切りちゃんには美味しさを超える便利さが確かにあるようだ。ごめんよ、缶切りちゃん。