OTNK日記

20代。ゲイ。種々雑多な日記。

主任は死んだ!もういない!

我が職場には直属の上司という人が三人存在する。

課長、係長、主任だ。

それぞれを紹介してみる。

まず課長はなんとも朴訥としたタイプで当たり障りのないタイプだ。年齢は45歳。銀縁のメガネをかけており、背格好は小太り。いかにも優しそうなお父さんタイプといったところだ。しかし、少し前に私服を見たら深めのVネックTシャツを着ていた。ハリウッド俳優でも着こなしの難しいレベルの深めのVだった。それが小太りのおじさんにはセクシー過ぎた為、職場の女性方からの評価は少し落ちた。けど、職場内での仕事の評価は概ね上々だ。

 

次は係長。彼はなんとも気難しい人でほとんど感情を見せないし表情も変わらない。年齢は38歳。身長は高いが物凄く痩せ型で、少し不気味な雰囲気がある。仕事ぶりもほとんど感情を見せないせいで機械的であり、周りから怖がられている。あだ名は「どろ人形」。よく似合っている。

 

最後は主任。彼は最高にダンディーな人である。年齢は34歳。玉山鉄二似の超絶イケメンで髪型はツーブロ。髭を生やしちゃいけない職種なのに髭生やしている。超ロック。服はバーバリーしか着ない。勿論仕事もバリバリできる。当然めちゃくちゃモテらっしゃる。腕っ節も強くて、社内で一番腕相撲が強い。しかも歌がめっちゃ上手い。十八番はT-BOLANの『離したくない』。そんなものを目の前で歌われた日には涙も枯れる。あ、あと視力もめっちゃ良い。パーフェクト。

 

そんな職場環境に身を置いているのだが、今回は超ダンディーな主任の話をしたいと思う。

前述の通り、超絶ダンディーな主任。そんな彼が

 

先週死んだ。そんなお話だ。

 

事の発端はある昼休み。主任と昼ご飯をご一緒させてもらった時だ。

普段はアウトドアか週末に行ったお洒落なバーの話を嫌味なく程よいユーモアを織り交ぜながら熱心に話してくれる主任がその日は忙しなく携帯を触っていた。

不思議に思い、なにをしているのか聞いてみた。そうすると主任はFacebookをしていると話してくれた。どうやら奥さんに勧められて始めたらしい。こういうのには慣れてなくてね、と苦笑いしながらもせっせとSNSに適応しようとする様はなんとも微笑ましくてきゅんきゅんした。主任、あんたはなにをやっても絵になる男だよ。

主任がどんな投稿をしているのかは気になった。ダンディーな主任のことだから簡素で男らしい投稿をしていることだろう。ダヌマン・スペシャルの葉巻でも燻らせながらスコッチのダブルを飲んでいる姿を投稿して世の女性方をキャーキャー言わせているんだろう。うーん、マンダム。流石、主任だぜ。

自分はFacebookをやっていないので、主任と繋がることは出来なかったがダンディーな主任のダンディーFacebookはありありと想像できた。

 

そんなことがあった後、同僚の女の子が主任のFacebookをフォローしたという。主任のダンディーな世界を垣間見ようと思い、その女の子に主任のFacebookを見せてもらった。すると直近の投稿にこんなものが書いてあった。

 

今日はちょっと早めに帰ってこれたから「これ」やってます

(いい感じに光飛ばして加工したビールの写真)

#頑張った自分への #ご褒美 #今日は #ビールで #乾杯 #至福

 

ん???????????違う人の投稿を見てしまったのだろうか。こんな長ったらしいハッシュタグをつけるのは自称読モのインスタグラマーぐらいなものだ。どこだ、葉巻はどこだ...?

いや違う。主任だ。玉山鉄二だ。これは紛うこと無き主任のFacebookだ。

眩暈が襲う。なんてこった。あのダンディーな主任が...こんな...こんな...社内抱いて欲しいランキング堂々の第一位のあの主任が...

普段の主任のイメージとは余りにもかけ離れており脳の処理が追いつかない。そんな状況でもツッコミたいところは山ほどある。

その写真もしかして画像加工アプリとかでシコシコ加工したのだろうか。なんでもない安いビールをお洒落風に写してなにを表現したいのだろうか。#至福て。#至福て。そのハッシュタグ文章に一体何の意味があるのか。誰と何を共有したいのだろうか。誰が「至福」で検索かけるのだろうか。う...また眩暈が酷くなってきた。

 

死んだ。自分の知っている主任は、玉山鉄二は死んでしまった。享年34歳。自分が勝手に理想を描いていただけかもしれないが、それでも。それでも確かにいたはずのダンディーな主任はもういない。いるのはFacebookInstagramみたいな投稿をする34歳の髭のおっさんだけ。

もう見たくない。そう思いながら同僚に携帯を返そうとした。

いや、待てよ。もしかしたらこんな投稿はこれだけかもしれない。こんなふわふわした読モ気取りインスタグラマーな投稿はこれだけかもしれない。茶目っ気かもしれない。主任なりの茶目っ気でこんなふざけた投稿をしているのかもしれない。きっと他の投稿にはダンディーな主任らしい、簡素で男らしい荒野のような投稿が広がっていることだろう。

なんだ、主任。そういうことなら早く言ってくださいよー!もーう!茶目っ気ありますねー!まっ!そういうとこがより魅力を引き立て...る...という...か...

 

ちょっと前に植えたハーブが育ってきた!収穫が楽しみ!

(ベランダに置いてあるプランターを背景ぼかして撮った写真)

#収穫が #楽しみ  #丁寧な暮らし #持たない暮らし #ファインダー越しのハーブ(笑)

 

違った。広がっていたのは男の荒野ではなくインスタグラマーに寄せたパステルな色合いの世界。ず...頭痛が...吐き気もする。

あまりのショックにスマホを眺めながら倒れそうになる。

ハーブ?主任はそんなもの食べない。枯れ草とか食べる。ダンディーな主任は枯れ草を食べるはずだ。

丁寧な暮らし...?なにをいっているんだ主任。あなたはもっと粗野で横暴な男の世界に住んでいたはずだ。荒くれ共と街のバーで飲んだくれていたはずだ。

ファインダー越しのハーブ(笑)?もうほんと意味分かんない。なにが(笑)なんだ。なにが笑えるんだ。主任はもっとエッジのきいた笑いを好んでいたはずだ。

 

おかしい。惨劇だ。これは正に惨劇。世界線が...世界線が狂ったのか...?シュタインズゲートははるか遠くへ...?それとも最初から主任が狂っていたのか...?いや、狂っているのは...自分...か...?

 

世界は残酷だ。いや人の理想とは残酷だ。自分が打ちたてた主任の理想像は主任自らの手によって壊された。自分の中の主任は死んだのだ。

しかし、悲しむことはないはずだ。本当の主任はずっとそこにあって、自分が見ていた主任はただの幻だったのだ。霧が晴れただけだ。そして、自分の理想像に霧がかかっただけだ。

 

世界は今日も回り続ける。玉山鉄二似のおじさんが場違いな投稿をしていても。玉山鉄二似のおじさんに憧れていた若き男が理想の海で溺れようとも。そう。残酷にも世界は今日も回り続けるだけなんだ。

 

ただ一つ、一つだけ言わせて欲しい。

SNSって怖いね...

 

離したくない

離したくない