OTNK日記

20代。ゲイ。種々雑多な日記。

一番クソってほどじゃなかったけどちょっとクソだったリアルの話

前回、大学時代の友人についての話をさせてもらった。

 

omochi0721.hatenablog.com

 

大学時代の思い出を探る道中で、また別の大学時代のゲイの友人のことを思い出した。ので、今回はその彼について書こうと思う。

 

彼とはナイモンで知り合った。同じ大学の同じキャンパスで確か年齢は1つ上。アプリ上で知り合ってからしばらくは一日に何通か他愛もないメッセージをする仲だった。

そんな彼が急に「ドライブに行こう」と言い出した。車を買っただか親に車を譲ってもらっただかそんな理由だった。長い間メッセージのみのやり取りだった男といきなり会うというのはなんだか面倒のように思えた。が、特に断る理由もないのでなんとなくでOKの返事をした。

 

夜、自宅の近くまで迎えに来てもらい助手席に乗り込んだ。それなりに長い間メッセージは交わしていたが、一応は初めましてだ。そこそこの挨拶をお互いに済ませ、車は発進した。

普段から運転はしているのか、彼のハンドルさばきはスムーズで、ドライブは好調な滑り出しだった。車で小1時間走らせたとこに夜景が綺麗で有名な山があったので、そこを目指していた。車内では当時流行していたEDMが大音量で流れていた。

なんとも大学生らしい遊びだ、と思った。もし「大学生が行うドライブについて以下の単語を用いて説明しなさい」なんていう設問がされたら、提示される単語はやはり「夜景・EDM・友人の車」であろう。模範解答は「友人の車で夜景を見にEDMを流しながら山に行った」。加点として「イツメン」や「濃いメンツ」なんかがあるが、今回は出会い系で知り合ったゲイ同士という点が異質を放っている。普段ノンケの友人とやるような遊びをゲイの初リアルでやっているというのがなんだか可笑しかった。

 

車は問題なく山の麓に到着した。ここからの道は狭く曲がりくねっていて、また、車やバイクの走り屋も多く訪れる場所だ。自分は何度かこの山に来ているのでよく知っていた。

「こっから先は少し危ないんでゆっくり行きましょう」と言うと、運転手の男は「俺、山とか走り慣れてるから大丈夫だよ」と返した。

 

彼はなんだかカッコつける男だった。メッセージのやり取りでも感じていたが、言葉の端々にナルキッソス精紳が見え隠れしていた。それだけなら大学生にありがちなものだが、彼のそれは他人より大きかったように思う。恐らく彼の内部世界には無尽蔵のカッコつけがあった。実際に「カッコいい」と思わせるような顔ではなく、「カッコつけてる」となってしまうのがなんとも惜しかった。

加えて彼のカッコつけは少しズレていた。事あるごとに「俺、ローストビーフよく作るんだよね」を決め台詞のように言っていた。こちらからしたら「はぁ...さいですか」なんて反応なのだが、彼はそんな若干ズレてるアピールを更に続ける。

俺、ローストビーフ作るの得意なんだよ。スパイスとかに凝ってるし、自分で配合とかもしてんの。え?普通のと何が違うかって?それは教えらんない(笑)企業秘密(笑)けど、ほんと美味いからさ、今度家に遊びに来てよ。食べさせてあげる。

このようなことをなんかすっごいカッコつけてる感じで言う。肉塊一つ作れるだけで家に誘い込もうとする。GACKTでも中々ここまでカッコつけれないであろう。

 

山道へと車を進めた彼は、おもむろにハンドルから片手を離した。これはもう自明の理であった。カッコつけて車を運転する男はハンドルから片手を離すし、ハンドルから片手を離す男はカッコつけた運転をするのである。秋に枯れ葉が風に巻かれて、地面へと落ちることに誰も理由を求めないのと同じように彼もまた片手をハンドルから話すことに釈明は付け加えることはない。

「結構飛ばすから酔ったら言ってね」と彼は言った。

出来る事なら安全運転が良い。ゆとりを持って走るカッコよさもありますよ、そう言ってやりたかったが止めた。彼の思うカッコよさを完遂させてあげよう、と思う友人心からだった。あと飛ばすといった割に40キロ巡航くらいだったので、大して危険でもないかと思ったのもある。

 

車は無事に山頂の展望台の駐車場へと到着した。展望台までは少し歩かねばならなかった。駐車場からすぐにひらけた広場に出た。まだ夜景は見えないが、山際に夜景を一望できるスペースがある造りになっており、既に人が何人かいるのがなんとなく分かる。

歩を進めようとすると後ろから目を塞がれた。「だーれだ?」のポーズである。塞ぎ手はもちろん彼しかいないのだが。

「君ってここ来たことないでしょ?目の前までお楽しみ」彼は言った。

シンプルに「うわ~」と思った。サムいサムくないの話も勿論あるのだが、自分はここに何度か来たことがある。それ故この時は、期待されるリアクションを返す困難さへの予感に「うわ〜」と思う他なかった。

というか、なんで来たことないと思ったのか。道知ってただろ。確かに車内で来たことあるなんて話はしなかったのではあるのだが。どうやら彼はこのサプライズみたいのをしてみたいあまりに状況が見えていないらしい。視界を塞がれている自分、状況が見えていない彼。どちらも盲目である。非常に危険な状態だ。

 

ここで彼が期待するリアクションは「すげぇ~!めっちゃ綺麗!ヤバ~い!」とかであろうか。そして通常であれば発せられる自分のリアクションは「・・・・・・」である。何故なら何回か見たことあるからだ。繰り返し言うが、何回か見たことある景色なのだ。

しかし、ここまで車を出してくれて、夜景の感動を一際大きなものにしようと尽力してくれている彼の期待には出来るだけ応えたい。彼に対する精一杯の感動を伝えよう。期待される反応は難しいかもしれないが、せめて大きな声を出そう。地方予選敗退確実な高校球児のようなメンタリティであった。

 

密かなる決意を胸に再び歩みを進める。勿論、目は彼に塞がれている。物凄く歩きにくい。どうしてもチョコチョコ歩きになる。大変滑稽だ。しかも広場がデカいので展望台までそれなりに距離がある。これについては3秒に一回薄目を開けるワザップで事なきを得る。チョコチョコ歩きする男二人組を5分ほど全うした。かなり恥ずかしい。彼もよくやり遂げたと思う。拍手を送りたい。

「絶対目開けたらダメだよ?あ、そこに段差ね」

「見ないですよ~」

めっちゃ見てた。ガッツリ半目開けてました。段差もひょいひょいである。そして遂に展望台にたどり着き、視界が解放される。

「わぁ~!......めっちゃ綺麗ですね...労働者たちの光ですね...」

一つ目のエクスクラメーションマークで力尽きてしまった。何故か折角の夜景を物悲しい表現をするスタンスを表明してしまった。そしておもむろに黙り込んだ。リアクションの大きさではなく、「夜景の美しさに言葉を失う」という戦略へと舵を切ったつもりであったが、今にして思うとただのリアクション薄い男であった。

 

なんとなくこんな事を思い出したので書いてみた。でもここまで思い出せるということはそれなりに心に残った思い出ではあったのだろう。彼には、ありがとうと、あの手のサプライズはサムいからやめた方が良い、という二点をここでは伝えてこの文を締めることにします。