OTNK日記

20代。ゲイ。種々雑多な日記。

道中にて

お盆も折り返しに差し掛かっているが、皆さんはどうお過ごしでしょうか。

僕はお盆の前半はまさかのお仕事。しかも北海道までの出張をさせられていた。こんなコロナ渦の時期に県外への出張を命じるなんて悪魔の所業だ。鬼!悪魔!うんこ!

心の中で会社への悪口を携えながら単身、北海道へ。

 

まずは最寄り駅から羽田空港までバスで向かう。

こんな時期なのにバスの中はそこそこ混雑しており、途中から乗車した大層綺麗なOL風のお姉さんが僕の隣に座った。僕は男色家、いわゆるゲイだが綺麗なお姉さんが近くにいるとそれはそれでドキドキしてしまう。歯医者で歯科助手のお姉さんのおっぱいが当たるとそれなりに嬉しいし、歯医者のおっさんのぶっとい指を口内に突っ込まれるとそれなりに嫌な気分になったりするやつと一緒だ。人間はそんなに単純にはいかないものと痛感させられる。

しかし綺麗なお姉さんが横にいるとそれはそれで気を遣うというのもある。もし不意に眠ってしまってお姉さんの方にもたれかかってしまったら、この出張は北海道ではなく豚箱に行き先が変更されることだろう。ここは正念場だと、コンビニで買っておいた『決定版かりあげクンコレクション』を読んでなんとか眠気を退ける。やはり植田まさしは天才か?

それにしてもこのお姉さんは、他に空いてる席があるのに何故僕の隣に座ってきたのだろうか。僕が一番安全そうに見えたのだろうか。だとしたらそれは甘い考えですぜ、マダムグレートギャッツビー、なんてこともなくお姉さんの判断は正しい。僕はゲイでしかも綺麗なお姉さんの前だと照れてしまい、まともに見ることも出来やしないのですから...

 

そんなことを考えているとバスは羽田空港まで到着した。汗臭かったでしょう、ごめんねお姉さんと心の中で詫びながらバスを降りる。

時計を見てみると離陸までもう1時間を切っているところだった。時間管理が悪すぎる。僕は「のせて~~~~」とコロコロの読者欄の投稿のような勢いでチェックイン、搭乗審査を済ませ、飛行機へと乗り込んだ。

僕は三列シートの通路側の席だった。右隣の窓側には小学生の男の子が座っている。ソーシャルディスタンスの関係だろうか、真ん中の席はどこも空くようになっていた。小学生の男の子は着席するやいなや、アディダスの黒色のリュックを板についた所作で前座席の下に下ろした。この歳で旅慣れているなと僕は感心した。

すると少年はリュックから漢字ドリルとノートを取り出し、なにやら書き取りを始めた。途端に黒鉛の香りがふわりと広がる。この歳で飛行機の離陸前にそわそわしないとは...この少年、やはり出来るな...と再度感心する。

こんなに落ち着いた少年の隣でいい歳の僕がそわそわするわけにもいかない。僕は焦って鞄からとりあえず太宰治の『惜別』を取り出し黙読する。『惜別』はもう何年も前に買ったもので未だに読破できていない。もう、太宰治の文難しすぎるっピ、なんて思っていると乗務員のお姉さんが僕に声をかけてきた。インテリの雰囲気を嗅ぎつけた雌蜂による逆ナンチャレンジかと思ったが

「お客様、シートベルトが正しく装着できていませんのでお直し下さい」

小学生の男の子でもなく、25歳の大人の僕がシートベルトを正しく装着出来ていないと叱られてしまってたまらなく悔しくなった。ちくしょう、どうせ僕は旅慣れていない田舎者ですよと月に吠えつつ装着しなおす。

 

そのうち飛行機はごごごごと地響かせながら動き始めた。いよいよ離陸だ。

重心がシートの背もたれに押し付けられる感覚に不安と興奮を覚えつつも、ちらりと右隣を見ると、離陸という大イベントに際しても少年はひたすらにノートに漢字を書き取り続けている。僕はその光景に恐怖さえ感じた。旅慣れしすぎてるのではないか。もう旅の師匠と呼んでも差し支えないだろう。

その後2時間弱のフライトを終えた飛行機はやがて新千歳空港にその足を下ろした。飛行機は速度を緩めつつ搭乗ゲートに近づき、機内の電子機器制限が解除されると、少年はリュックからニンテンドーswitchを取り出して膝を抱えながらプレイを始めた。師匠にも子どもらしい面があったんすね。師匠、なにプレイしてるんですか?6つの金貨ですか?

 

墜落しなかったことを神に感謝しながら飛行機を降りる。師匠とはここでお別れだが、彼ならどこでもやっていけるだろう。グッド・バイ、師匠。俺も師匠みたいになれるように頑張りますぜ、なんて思いながら今回の目的である出張先へと向かう。そこで時間管理をミスって1時間以上遅刻したのはまた別の話で語るとしよう...