OTNK日記

20代。ゲイ。種々雑多な日記。

密室の緊、沈黙は金

エレベーター。それは最も身近にある密室空間。赤の他人と僅かな時間といえども密室に閉じ込められることはエレベーターにおいて他にないだろう。

しかしあの空間の慣れなさったらない。ショッピングセンター等のエレベーターはまだいいが、会社の中のエレベーターはほんとにダメだ。どこを見たらいいか分からない。要は気まずい。みんなにも共感してもらえるのではないだろうか。大方、視線は今何階通過中みたいなランプに向けるしかなくなる。きっとあなたもそうだろう。

知らない人と望んだわけでもない密室に閉じ込めらる苦痛に耐えかねて、皆、上を見上げる。その密室においての共通点は唯一つ。上昇したいか、下降したいか。(二つか?)それだけの接点の人間が存在する閉鎖的空間、エレベーター。異様といえば異様なシチュエーションである。

よって、エレベーター内では空気が張り詰める。空気が止まる。剣豪同士の決闘において、自らの隙を消しつつ相手の隙を探るような空気に似ている。いつかどこだかの巌流島においてもエレベーター内と同じような空気が流れていたのだろう。互いが互いを意識していないようで、猛烈に意識している。しかし動くことは出来ない。動かない。あの閉鎖空間で動くのは、そうあのランプだけ。人々が神秘的な星空を見上げるが如く、エレベーター内の人間が一様にランプを見上げている。

そして、張り詰めた空気にエレベーター内の人数は比例しない。二人きりだろうと満員だろうと空気は同じように張り詰める。知人数人とエレベーターに乗り込んだ際、中に人がいた段階で会話が中断されることはままあるだろう。電車よりもずっと濃い密度が、会話を妨げてしまう。喋ることに申し訳なさすら感じてしまうのは何故だろう。

最早、袖振り合うのも何かの縁であるのだからコミュニケーションをとってみるのもいいかもしれない。いい天気ですねぇ、とか。GWはなにして過ごしてはりましたか?、とか。そんな日本人極まりない切り口から話題を探してみるのもいいだろう。場を柔らかくすることはその場にいる人全ての務めであるのだから。

しかし忘れてはいけないことがある。相乗りといえど、それは構造物を上下に横断するだけの業務的な仲に過ぎないということだ。各人の行きたい階に到達した瞬間、目的は達成される。各駅停車よりも更に短いスパンで目的は達成されてしまう。刹那の別れだ。袖振り合ってすらいない。故に密室という距離にいながら、見えない距離は果てしなく開いてしまう。

全てのコミュニケーションを打ち消す魔の空間、エレベーター。何をしようと正解には辿り着けないラビリンス。有意義の流刑地。だから、自分たちはランプを見上げる。ランプの到達点に有意義を見出すために。

 

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