OTNK日記

20代。ゲイ。種々雑多な日記。

電車内で化粧したっていいじゃない、人間だもの

本日久しぶりに電車に乗った。名古屋市という区管理された政令指定都市に住んでいながら移動は専ら車である。都心ほどではないにしても網の目のように地下鉄諸々が整備されているのに、あまりそれを利用していなかった。そんな久々に利用した電車の車内で自分はある存在に釘付けになっていた。自分の座る座席の斜め向かいで化粧をしているお姉さまの存在に。

社会一般において電車内での化粧は様々な物議を醸す。はしたない。家でするものだ。行儀が悪い。全くもって諸兄方の言うことはごもっともである。この行為を男性に置き換えると電車内で髭を剃ったりワックスをつけるようなものだろうか。確かに美しい行為ではない。まっとうな非難轟々が押し寄せるであろう。しかし、自分はこの行為を否定したりはしない。一向に化粧してくれて構わない。もちろん、車内の状況を鑑みてという条件は付帯させて頂くが。

今日出会った名も知らぬ女性を、自分はじっと見つめる訳でもなく景色を見るふりをしながら眺めていた。幸いなことに車内は空いていてまばらに人がいるのみだ。彼女は一心不乱に化粧をしていた。恐らく寝坊でもしたのだろう。そんな事情を慮り、一生懸命な彼女を応援する。人の一生懸命な姿を見ると心がくすぐられる。「はじめてのおつかい」で一生懸命にはじめてを完遂しようとする子どもたちを応援する気持ちと一緒だ。応援する対象は違っても、構図は変わらない。頑張れ…叫びそうになる気持ちを必死で抑える。

女性はファンデーションを塗っていた。若干、血色の悪い肌や多少のくすみは白い肌へと塗り替えられていく。何層にも重ねられ、その白さに拍車がかかっていく。雪のような白い肌とはこのことなのだろう。深々と積もる雪。広がる白の世界。あの肌の只中にいたらきっと美しい世界が広がっていることだろう

あらかた肌は整えられた。自分のなによりの興味は眉にあった。早く書いてほしい。描いてほしい。緩やかな稜線を。今は産毛ほどしかないその場所に象ってほしい。今か今かとそのときを待つ。心臓が早鐘に脈を打つ。彼女が膝に置いたポーチから鉛筆のようなものを取り出すのが見えた。来た!眉だ!お目当てのものがやっときやがった。彼女はこなれた手つきで自分の顔をキャンパスに見立て、デッサンするかの如く目の上にアーチを描く。これを亡き葛飾北斎先生が見たらなんて言うのだろう。あっぱれ!なんていうのだろうか。眉嶽三十六景なんて描いてくれるのだろうか。

目は家で整えてきていたのだろう、それに加え肌と眉を整えたことにより彼女の顔は美しく輪郭を捉えだした。ピントが合うとはこの事なんだろう。

そこで突然、アナウンスが響く。「次の駅は~」アナウンスが次の停車駅を知らせる。サイネージにも次の停車駅の名前が煌々と輝く。彼女は慌てて、ポーチに化粧道具を仕舞い込む。それを更にカバンに仕舞ったと思えばマスクをつけて停車と同時に出口へと走り出す。

そいつの下半分はノーガードだ!なんて叫び出したい気分になった。

しかし楽しい時間を過ごさせてもらった。応援するという行為の楽しさ、心の盛り上がりを改めて実感した。だからという訳でもないが、個人的には電車内での化粧もそこまで悪ではないと声を中くらいにして言いたい。

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